タンノイ・オートグラフを導入しました(その11.最終回)

(左chのオートグラフです。足元にパワーアンプ用のアイソレーショントランスがあります)
オートグラフは複雑な折り返しバックロードホーンと、大きなフロントロードホーンが内蔵された大型のコーナー型スピーカーです。
大口径スピーカーも、折り返しホーンも、コーナー型も、かつてユニットやアンプの性能が不十分だった時代に、能率を上げ、低音を増強するために考案された方法です。
即ち現在では全く顧みられなくなった旧式なスピーカーです。
オートグラフは1953年に開発されていますから、本来モノラルで使用する事を前提に開発されたもので、モノラルの音を立体的に広げる意図をもって開発されているそうです。
従ってステレオ仕様では低域が出過ぎる、音場が広がり過ぎるなど問題があるかもしれません。
性能的にも現代のソースを再生するにふさわしいかのか、疑問のある所でしょう。
五味先生もテイチクの社長であったN氏のJBL4350を晩年に聴かれて、その迫真力に驚かれ、「N邸の4350と比較すると、我が家のオートグラフは混変調歪を伴ったオモチャの演奏である」と書かれていました。「数日間はボーっとして、オートグラフを聴く気にもなれなかった」とも。
これは事実だと思います。私も学生時代JBL4550B(ウーファーは2220B?)、2440ドライバー+2395ホーンレンズ、2402ツィーターを大音量で鳴らしていた池袋のジャズ喫茶(店名忘却)で、その分解能の良さ、シャープネス、広大なダイナミックレンジに驚き、自分のHPD385Aではとても太刀打ちできないとゲッソリしたことがあります。
オートグラフは正直、「オートグラフの音」を愛でるための物であり、現代のHIFIを追求するには不足する部分も多いと思います。
大出力アンプとロングストローク・ウーファー、高剛性振動板の技術革新で、現在のスピーカーは小口径、エンクロージャーも小型が主流です。ホーンどころかバッフル面も最小限、フリースタンディング、低能率が基本です。
箱の共鳴を極力排し、マジコのような高剛性箱やGIYAのような箱内部の共鳴を徹底的に抑えた物が最先端スピーカーです。
この時代にコンパウンドホーン、コーナー型、箱鳴りを音作りに利用するスピーカーなど全くもって時代錯誤でしょう。
オートグラフの後裔であるウェストミンスターを「現代のクレデンザ」と呼んだ人がいるそうです。つまり存在価値はあるものの、技術が旧式過ぎて誰も類似の製品を出さないという事でしょう。
同様に、オートグラフは今後、決して作られる事のないタイプのスピーカーだと思います。
オートグラフから物凄いHIFI音がするとは、今の私は考えていません。
しかし紅顔の美少年(?)の頃に高嶺の花とあこがれた、初恋のお姉さま(スピーカーエンクロージャー)を寝室に招き入れ、自分が学生時代に購入した馴染のユニットを納めて、同衾するのも私の楽しい終活になるのではないかと。
私はもうすぐ前期高齢者の仲間入り、年金をもらう年ですから、やり残したことをやってしまい、お迎えに備えるのも乙だと思うのです。
オートグラフは生産開始から既に69年が経過しています。私の15インチ・コアキシャルユニットは入手45年目、この度手に入れたノックダウン生産のエンクロージャーも40年以上前のものでしょう。
このスピーカーの白鳥の歌を聴くことは私の名誉であり、かつてこのスピーカーに憧憬を持った、私の責務でもあると思います。
私が介護老人になり、施設に入所せずに訪問看護、訪問看護で看取られる事になれば、この寝室で死ぬのだろうと思います。
通夜の席も終わり、自分の亡骸だけとなった部屋で、18歳の時から一緒にいるスピーカーがフォーレのレクイエムを小さく歌ってくれたら、私は静かに犬たちの待つ虹の橋へ旅立てると思うのです。
正直、寝室用のスピーカーですから、あまり凝り過ぎないようにします。
同時に、音楽鑑賞用ならこの位で宜しかろうという音にはなったと思います。
この記事へのコメント
どうもオートグラフに思い入れが強く関連記事には目がいってしまいます。FMファンの記事をご存知なので同年輩なのでは?と勝手に思っていますが、私も当時その記事で自作された方を知り、自分もと思い自作しました。ユニットはレッドで昭和54年ころイギリスから個人所有品を輸入しました。
箱はオリジナルが樺のランバーコアだったので、日本で唯一樺合板を製造しているメーカーに特注しました。現在巷にあるフィンランドバーチ合板とは全く違います。どちらかというとオリジナルのランバーコアに近い構造です。
拙宅へ聴きに来られる方がけっこう居られますが、私が言わなければ自作と思われる方はおられないようです。
アンプは現在プリ、パワーともWEです。
ソースはレコードオンリーで、オートグラフはクラシックステレオがメインです。モノはWEですがクラシック、ジャズの両用です。
自分の感覚ではこれらのソースでは、全く不足を感じたことがありません。
逆にこれ以上は無理かなと思っています。装置トータルの結果だとは思いますが、やはりWEによるところ大のようです。
失礼しました。
オリジナル・オートグラフはバーチ合板ではなく、バーチのランバーコアだったのですね。
ブログ訂正しておきます。
私も多少WEをやるのですが、書斎のシステムに使用しております。
モニターレッドとは凄いですね。私のヤツはHPD385Aのコーン紙をゴールドに張り替えたもので、箱も進工舎なのでパチ度が高いですw
今後とも宜しくお願いします。
訂正などとんでもありません。バーチですのでその必要はないかと思います。
ちなみに10年ぐらい前に、東大の泌尿器関係を研究されているかたと練馬区役所に展示され試聴できた五味先生のオートグラフを聴きにいきました。
今は場所が違うようですが試聴できるそうです。
区役所でTEACに依頼し整備したときの写真をもらいましたが、レッドの中期の初めのユニットでした。私のも五味先生と同じタイプで少し後です。
以前は東京にお住まいだったようですね。お近くであればお邪魔させて頂きたいところですが、埼玉なので残念です。